2008年 8月 会山行報告

仙塩尾根
 ・G4 ・  8月6日(水)−10日(日)

天 候 : 6日(水)雨、7日(木)晴れ、8日(金)晴れ、9日(土)晴れのち雷雨・雹、10日(日)晴れ

参 加 : 9名 : 視覚障害者2名、晴眼者7名

コースタイム概略 : 
6日(水) 広河原 12:20 ・・・ 北沢峠13:05−大平山荘13:20−大滝展望台14:20−5合目16:25−馬の背ヒュッテ16:45
7日(木) 馬の背ヒュッテ5:30−仙丈ヶ岳7:25−大仙丈ヶ岳8:25−伊那荒倉岳11:40 −横川岳13:40−野呂川越14:25−両俣小屋15:25
8日(金) 両俣小屋5:20−野呂川越6:30−三峰岳11:20−三国平12:30−熊の平小屋13:50
9日(土) 熊の平小屋4:45−安部荒倉岳5:45−北荒川岳8:55−北俣岳分岐11:20−塩見岳東峰12:20−西峰12:25−塩見小屋14:00
10日(日) 塩見小屋5:30−本谷山7:50−三伏山9:00−三伏峠9:30−豊口山間のコル11:15−鳥倉登山口12:10−ゲート12:45

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◆ 馬の背ヒュッテのご来光 ◆ 仙丈ヶ岳山頂

◎土砂降りの中での出発
 今回は南アルプス北部の北沢峠(2030m)から、同中央部の豊口山登山口(1630m)まで、水平距離にして25Km以上を4泊5日で縦走する。この間仙ヶ丈岳、塩見岳という2つの3000m超の高峰を越える。1日の標高差は最大1000m。南アルプスの雄大な自然が満喫できる期待と、最後まで歩き通せるかどうか不安を抱いての参加だ。参加者は視覚障害者が2名、晴眼者が7名のため、晴眼者が3名と4名の2グループに分かれて視障者を1名ずつサポートすることになった。
 1日目の目的地は仙丈岳山頂手前の馬の背ヒュッテ(2640m)。北沢峠からの標高差は約600mで今回の行程の中では楽なコースと思われた。しかしスタート直前からの土砂降りの雨。そのため小屋に到着するまで展望はなく、単調な直線の長い登りに飽き飽きし、到着までの時間は非常に長く感じられた。こんなことでこの先大丈夫だろうか。
◎お山の背比べ
 2日目は晴れ。早々に朝食を済ませ、日の出を待つ。すぐに空は茜色に染まり甲斐駒ケ岳のシルエットの右に見える八ヶ岳の上から燃える太陽が顔を出す。山での日の出シーン何度見ても感動せずにはいられない。早々に仙丈ヶ岳山頂(3033m)に辿りつく。人気の山だけに早くも登山者でにぎわっている。彼らの多くは小仙丈ヶ岳(2855m)を経て北沢峠に戻る。われわれは大仙丈ヶ岳(2975m)から仙塩縦走路に入る。今日の展望は申し分なし。後ろに仙丈、甲斐駒、右に中央アルプス、左には北岳(3093m)、間ノ岳(3089m)。そして北岳のすぐ右には富士山(3776m)までも顔を出している。我が国の高峰が一堂に顔をそろえ “♪遠いお山の・・・”のならぬ近くのお山の背比べだ。そして遥か前方に霞んで見えるのが塩見岳。本当にあんな遠くまで行けるなんてまだ信じられない。そんな先を心配する前にこの日の目的地の両俣小屋に辿り着かなければならない。そこまでも長い道のりがあるのだ。

◆ NO.1(富士山)、NO.2(北岳)、NO.4(間ノ岳)の背比べ ◆ シコタンソウ

◎倒木に苦しんだ2日目
 ここの山道はなだらかで歩きやすい。チシマギキョウ、チングルマ、ミヤマキンポウゲ、キバナノコマノツメ、トウヤクリンドウ、イブキジャコウソウ、ヨツバシオガマ、シコタンソウなど多くの高山植物とも出会えた。ただ1つ閉口したのが倒木くぐり。台風によって倒された樹木の数が半端ではない。またご丁寧に跨ぐには高すぎ、潜るには低すぎる高さで横たわっている。長時間歩いてかなり疲労感が出た後での大量の倒木くぐりはこの日の最大の難関だった。
 両俣小屋は、泊り客も少なく、4泊した中では最もくつろいだ気分になれた山小屋だ。星美智子さんという女性経営からの女性らしいきめ細かなもてなしと、4匹の人懐っこい猫が長丁場の疲れと野呂川越から小屋に降る急斜面での緊張した気分を癒してくれた。
◎1000mの登り
 3日目は両俣小屋(2000m)から三峰山(2999m)を越え、熊ノ平小屋(2576m)までの行程だ。約1000mの登りになるから今回の日程の中では最もきつい1日となるだろう。
 野呂川越までは昨日下った同じ道。そこの急登を越えると緩やかや尾根道に出た。すぐ左には北岳から間ノ岳に連なる稜線がありそこを縦走するパーティーの人影も見える。

◆ 彩雲 ◆ 熊ノ平付近からの間ノ岳

◎山頂で見た採雲
 三峰山は流石に3000m級の山。山頂が近づくにつれ鎖場を含む急な岩稜の登りとなった。山頂から間ノ岳まではすぐに手が届きそうな距離だ。間ノ岳というと何か北岳のついでに登る山といったイメージで印象が薄い。しかし、こうして近くで見るとその迫力はものすごく、紛れもなくわが国第一級の山だ。三峰山頂では美しい採雲を見ることができた。メンバーの多くは初めて見る採雲の美しさに見とれてしまったが、リーダーはこれを見て明日の午後にも嵐が来ることを予告する。そしてこれがのちの大事件の前触れとなる。
 山頂から三国平にかけては急な降りや、痩せた岩稜を三点確保しながら横這いするなど、スリルに富んだ岩場歩きが続く。これぞ高山山行の醍醐味だ。今回参加した視覚障害者2名はともにベテランゆえ、それまではあまりサポートに気を使う必要はなかったが、このあたりはするほうもされるほうも、お互いに気を抜けない場面が連続する。
 熊ノ平小屋には午後2時前に到着。難航を予想していた行程だったが意外と早く着けて少しほっとする。
◎近づく塩見、仙丈は遥か彼方に
 4日目は事実上の目標地点ともいえる塩見岳(3046m/西峰)を目指す。疲労は溜まってきたが体が慣れてきたせいか足はさほど重くない。どうやら途中ギブアップという事態は免れそうだ。茜色に染まる夜明けの直前に山小屋を出発、樹林帯を抜けた尾根に出ると360度の展望が広がった。右後方には槍・穂高連峰が初めて視界に入る。前方の塩見岳はまだまだ遠い。ハイ松の樹林帯を越え、新蛇抜山を巻き、北荒川岳を過ぎるころになってようやく塩見岳に近づいた実感がわく。逆に仙丈は遥か遠い彼方に行ってしまった。いや〜、よく歩いたものだ。そして最後の急登となるであるはずの蝙蝠岳分岐までの少し危険なガレ場を一気に登り切った。
 この時点で塩見山頂はもう目の前。この先、多少の難所があっても、これまでの皆の足どりを見る限り、いままでと同じように問題なく乗り切れる。どうやらこの山行も先が見えた、と感じていたメンバーは多かったはずだ。しかし山は甘くなかった。ここから最も緊張を強いられる場面に遭遇するとは・・・。

◆ 安倍荒倉岳手前からの展望 ◆ 北荒川岳への登り

◎忘れられない山行に
 塩見山頂直前で降り始めた雨は、山頂で早くも大粒となる。リーダーの予告通り昨日の採雲がついに正体を現した。我々は記念撮影もそこそこに下りを急ぐ。目の前で稲妻の閃光がひかり、雷鳴が頭上で轟く。それはまるで目の前の岩場に落雷したかのようだ。嵐は雹を伴い、米粒大ほどの氷の粒が容赦なく全身を叩きつける。不意を突かれた格好で雨具の装備も十分とは言えない我々は、たちまち水中に飛び込んだように下着から靴の中までびしょ濡れとなる。足もとの急な岩場の斜面は濡れて滑りやすい。
 落雷と滑落の危険とが隣り合わせだった、そんな中でも流石は六つ星山の会の面々。誰ひとり取り乱すことなく、またサポートの体制も乱すことなく、冷静に慎重に安全な足場を探りながらリーダーに従って一歩一歩着実に降り続ける。
 1時間半の苦闘の下山の末、ようやく全員揃って無事に塩見小屋(2753m)に到着した。塩見小屋には熊ノ平小屋から我々が到着したかどうかを確認するための電話があったという。いろいろな人々が見守ってくれていたんだ。
 危険は過ぎ去り安ど感が漂う中
「これで一生忘れられない山行になったね?」
握手を交わしながらメンバーの一人が言うと皆うなずいてにっこり笑った。

 当初は完走できるか心配だった今回の長い山行も、リーダーにはぐいぐいと引っ張ってもらい、メンバーの皆さまには励まされ、どうにか最後まで挫けることなく歩き通すことが出来ました。頼もしい仲間の皆さまのお蔭です。とくに塩見からの降りでは、もし一人だったらいったいどうなっていただろうか。
 陰で支えてくれた皆様も含めていろいろと本当にありがとうございました。

◆ 塩見岳山頂(西峰) ◆ 塩見小屋前